ボクシング界は常に新しいスターと伝説の狭間で動いている。その中で無敗の技巧派ファイター、デビン・ヘイニーの存在は今もっとも熱い注目を集めている。過去にライト級で4団体統一王者に上り詰め、さらにスーパーライト級でも世界王座を獲得した。若くしてキャリアの大半を世界戦線のど真ん中で戦ってきたこの男が、ついにウェルター級の本流で真価を試されることになる。ここではデビン・ヘイニーというボクサーを徹底的に紹介し、その強さの秘密、戦績、そして迫る大一番に向けての注目点を掘り下げていく。
プロフィール
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— Devin Haney (@Realdevinhaney) June 5, 2022
名前 | デビン・ヘイニー(Devin Haney) |
生年月日 | 1998年11月17日 |
デビュー | 2015年12月11日 |
出身地 | サンフランシスコ(アメリカ) |
身長 | 173cm |
リーチ | 180cm |
タイプ | 右ボクサーファイター |
階級 | ライト級 (61.23キロ) スーパーライト級 (63.50キロ) |
実績 | 主要4団体統一(ライト級) 世界2階級制覇 |
デビン・ヘイニーは1998年11月17日生まれのアメリカ人ファイターである。父親がメイントレーナーを務めるスタイルで、アメリカのリングだけでなくメキシコでも初期のキャリアを積んだ。10代半ばという若さでデビューを果たし、メキシコでキャリアをスタートさせている。リング上では華やかでクールな立ち振る舞いを見せるが、実際の戦い方は非常に計算され尽くしたものだ。
過去には、WBAスーパー・WBC・WBO・IBFの世界主要4団体統一王者となった。この4団体統一という記録は、ライト級では史上初であり、男性ボクシング史上8人目の快挙だった。
戦績
アマ戦績 146戦138勝8敗
プロ戦績 32戦31勝(15KO)無敗1無効
世界戦戦績 10戦9勝(1KO)無敗1無効
※2024年4月20日時点
戦績だけを見ても驚異的だが、さらに重要なのは対戦相手の質である。
単なる無敗ボクサーではなく、ライト級時代にはロマチェンコ、ホルヘ・リナレス、ジョセフ・ディアスといった強豪を相手に勝利を積み上げてきた。スーパーライト級でもレジス・プログレイスといったトップ選手に勝利しており、戦ってきた相手のレベルは近年非常に高まってきた。
ライアンガルシアとの無効試合
2024年4月20日、ニューヨークのバークレイズ・センターで行われたWBC世界スーパーライト級王座の試合で、デビン・ヘイニーはライアン・ガルシアに判定で敗れた。しかし、その後のドーピング検査でガルシアの陽性反応が確認され、試合結果は無効試合に変更された。
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試合実績
戦 | 日付 | 勝敗 | 時間 | 内容 | 対戦相手 | 国籍 | 備考 |
1 | 2015年12月11日 | 〇 | 1R 0:33 | TKO | ゴンサロ・ロペス | メキシコ | プロデビュー戦 |
2 | 2015年12月18日 | 〇 | 1R 1:36 | TKO | ホセ・イニゲス | メキシコ | |
3 | 2016年2月20日 | 〇 | 6R | 判定3-0 | ホルヘ・エドガル・シラ | メキシコ | |
4 | 2016年3月19日 | 〇 | 1R 2:26 | TKO | ローマン・メレンデス | メキシコ | |
5 | 2016年4月9日 | 〇 | 4R | 判定3-0 | ラファエル・バスケス | プエルトリコ | |
6 | 2016年5月21日 | 〇 | 4R 1:34 | TKO | ジャイロ・バルガス | アメリカ合衆国 | |
7 | 2016年6月25日 | 〇 | 6R | 判定3-0 | クレイ・バーンズ | アメリカ合衆国 | |
8 | 2016年8月12日 | 〇 | 2R 1:45 | TKO | ハビエル・メラス | メキシコ | |
9 | 2016年8月27日 | 〇 | 6R | 判定3-0 | カルロス・カスティージョ | アメリカ合衆国 | |
10 | 2016年9月15日 | 〇 | 5R 1:19 | TKO | マイク・ファウラー | アメリカ合衆国 | |
11 | 2016年10月21日 | 〇 | 5R 1:45 | TKO | カルロス・アントニオ・アビラ | メキシコ | |
12 | 2017年1月12日 | 〇 | 1R 1:49 | TKO | オディロン・リベラ・メザ | メキシコ | |
13 | 2017年1月28日 | 〇 | 2R 0:56 | KO | ダニエル・アルマンド・ヴァレンズエラ | メキシコ | |
14 | 2017年3月4日 | 〇 | 4R 1:34 | TKO | マキシミーノ・トアラ | メキシコ | WBC世界ライト級ユース王座決定戦 |
15 | 2017年4月15日 | 〇 | 8R | 判定3-0 | ヘクトル・ガルシア | メキシコ | |
16 | 2017年6月24日 | 〇 | 5R 1:51 | KO | ミゲル・アンヘル・ペレス・アイスプロ | メキシコ | |
17 | 2017年9月22日 | 〇 | 8R | 判定3-0 | エンリケ・ティノコ | メキシコ | |
18 | 2017年11月4日 | 〇 | 5R 1:39 | TKO | ハムザ・センペウォ | ウガンダの旗 ウガンダ | |
19 | 2018年5月11日 | 〇 | 9R 終了 | TKO | メイソン・メナード | アメリカ合衆国 | USBA全米ライト級王座決定戦 |
20 | 2018年9月28日 | 〇 | 10R | 判定3-0 | ファン・カルロス・ブルゴス | メキシコの旗 メキシコ | IBF北米ライト級王座決定戦 |
21 | 2019年1月11日 | 〇 | 10R | 判定3-0 | スリサニ・ンドンゲニ | 南アフリカ共和国 | WBCインターナショナルライト級王座決定戦 WBOインターコンチネンタルライト級王座決定戦 |
22 | 2019年5月25日 | 〇 | 7R 2:32 | TKO | アントニオ・モラン | メキシコ | WBCインターナショナル防衛1・WBOインターコンチネンタル防衛1 WBAインターナショナルライト級王座決定戦 |
23 | 2019年9月13日 | 〇 | 4R 終了 | TKO | ザウル・アブドゥラエフ | ロシア | WBC世界ライト級暫定王座決定戦→正規王座認定 |
24 | 2019年11月9日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | アルフレド・サンティアゴ | ドミニカ共和国 | WBC防衛1 |
25 | 2020年11月7日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | ユリオルキス・ガンボア | キューバ | WBC防衛2 |
26 | 2021年5月29日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | ホルヘ・リナレス(帝拳) | ベネズエラ | WBC防衛3 |
27 | 2021年12月4日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | ジョセフ・ディアス | アメリカ合衆国 | WBC世界ライト級王座統一戦 WBC防衛4 |
28 | 2022年6月5日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | ジョージ・カンボソス・ジュニア | オーストラリア | WBA・WBC・IBF・WBO世界ライト級王座統一戦 WBC防衛5 |
29 | 2022年10月15日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | ジョージ・カンボソス・ジュニア | オーストラリア | WBA防衛1・WBC防衛6・IBF防衛1・WBO防衛1 |
30 | 2023年5月20日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | ワシル・ロマチェンコ | ウクライナ | WBA防衛2・WBC防衛7・IBF防衛2・WBO防衛2 |
31 | 2023年5月9日 | 〇 | 12R | 判定3-0 | レジス・プログレイス | アメリカ合衆国 | WBC世界スーパーライト級タイトルマッチ |
32 | 2024年4月20日 | – | 12R | 無効 | ライアン・ガルシア | アメリカ合衆国 | |
33 | 2025年11月22日 | ブライアン・ノーマンジュニア | アメリカ合衆国 | WBO世界ウェルター級タイトルマッチ |
ファイトスタイル

ヘイニーはボクサーファイタータイプの右オーソドックススタイルを基本としている。アウトボクシングもインファイトもこなせる万能型ではあるが、本質的には相手の懐に入らず、中間距離から遠距離で戦うアウトボクサーである。
リング中央を支配し、距離を制御することに関しては現役随一と言える。彼のボクシングは常に冷静沈着で、無駄な動きがなく、試合全体を美しいリズムで組み立てていく。
オフェンス
ヘイニーの攻撃はフィジカルの恵まれた体格と長いリーチを最大限に活かしたジャブとストレートに集約される。遠い距離から繰り出されるジャブは精密な測量器のように正確であり、これだけで試合を組み立てることが可能だ。だが、一発の威力は突出しているわけではなく、強打で倒すよりも確実に当ててポイントを重ねる戦術を好む。
彼は決してアグレッシブに攻め続ける選手ではない。むしろ常に冷静に相手を観察し、隙を見てボディへのストレートや距離を調整するための左フックを差し込む。加えて、接近戦では左手で相手の視界を遮り、見えない角度からアッパーを狙うといったトリッキーな工夫も見せる。これらの要素を組み合わせることで、彼の攻撃は派手さよりも戦術の巧妙さと精度で光るものとなっている。
ディフェンス
ヘイニーのボクシングの真骨頂は、何よりもディフェンス能力にある。ライト級において間違いなくトップクラスの防御技術を誇り、相手の攻撃を無効化する術を無数に持つ。
彼は常に冷静に相手の出方を観察し、状況に応じて最適な選択をする。相手が前進してきたときには、素早いバックステップで距離を外し、リング中央では俊敏なステップワークを駆使して角度を変えながら攻撃をかわす。ガードの使い方も非常に巧みで、メイウェザーを彷彿とさせるL字ガードを用い、相手のパンチを滑らせるように受け流す。また、頭の動きも鋭く、高速のウィービングで相手のコンビネーションを空転させることができる。
ロープ際に追い込まれる場面では、押し出すようなジャブを打ち込み、相手を下げさせて状況を立て直すこともあれば、敢えて接近戦に持ち込み、クリンチで完全に試合をリセットする選択もある。さらに、接近戦では単なる防御にとどまらず、左手で相手の視界を遮りながら、死角からアッパーやボディを狙うという高度なテクニックを織り交ぜる。
このように防御と攻撃をシームレスに融合させる点こそ、ヘイニーの芸術的なテクニカルボクシングの象徴である。相手に攻め手を見つけさせず、逆にその攻撃を利用して主導権を握る彼のディフェンスは、単なる守りではなく勝利へと直結する攻撃的な防御と言えるだろう。
試合の注目ポイント
リングIQの高さ
ヘイニーの最大の武器は試合全体を俯瞰してコントロールする知性である。ラウンドごとに戦い方を変え、常に相手より一手先を読んで動く。攻防の選択が的確で、相手にペースを渡さない。
精密なジャブワーク
どんな相手に対しても中心となるのがリードハンドのジャブである。距離を支配し、試合のテンポを自分のものにするジャブは世界屈指の精度を誇る。
リスク回避の徹底
批判も受けるが、ヘイニーの試合は徹底的にリスクを避けている。これはつまり負けないボクシングを体現しているということだ。強打のある相手に対しても、危険な距離に入らないことで勝ちを積み重ねる。
精神的なタフさ
何度倒されても立ち上がり、冷静さを保つ強さはヘイニーの隠れた武器である。逆境を跳ね返す精神力があるからこそ、無敗の戦績を維持できている。
キャリアの積み重ね
若くしてトップ選手とばかり戦ってきたことが、彼の実力を裏打ちしている。リナレス、ロマチェンコ、プログレイスといった名だたる強豪を退けてきた経験は、何よりも大きな財産である。
まとめ
デビン・ヘイニーは単なる無敗ボクサーではない。ライト級4団体統一王者という偉業を達成し、スーパーライト級でも頂点を極めた。そして今なお無敗を維持し続けている。派手なKOは少なく、観客から「退屈」と批判されることもあるが、その裏にあるのは勝利に徹する徹底的な合理主義である。リングを支配し、相手を封じ込める冷静さは他の追随を許さない。精神力、技術、経験すべてが揃った技巧派の完成形ともいえる存在だ。デビン・ヘイニーの戦いは、ボクシングの奥深さを示す究極の実例であり、今後もボクシング界の中心で語られ続けることになるだろう。
スーパーライト級主要選手
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